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カレーのヒント 026:ナイアガラレーベル

カレー&スパイス専門の自費出版レーベル「イートミー出版」を立ち上げたのは、もう10年以上前。あのとき、「カレー界のナイアガラレーベルにしたい」と思った気持ちは今も変わらない。ナイアガラレーベルは、故・大瀧詠一さんが手掛けていたものだ。
当時から「紙メディアは終わった。もうネットの時代だ」と言われていたから、あえて紙媒体を作り続ける出版レーベルを立ち上げた僕に何人かが善意のアドバイスをくれた。「水野君がやりたいことは出版じゃなくてネットでやったほうがいいよ」と。
伝えたいことを伝えるために紙にインクを乗せ、完成したら場所を設けて販売し、読者に届けるなんて効率が悪すぎる、というのが言い分で、僕自身もその内容については納得していた。
ほかにもこんなアドバイスがあった。「水野君なら普通の出版社からいくらでも本が出せるんだから、わざわざ自費でやる必要はないんじゃない?」。確かにそういう視点もあるのかもしれない。
それでも「時代遅れ」かつ「無駄が多い」と言われる紙ものを「わざわざ」作り続けたいと思ったのは、「出版物が好きだから」という理由と「効率が悪いという環境でも前を能動的に動くだけのモチベーションが自分にあるかを測りたい」という理由からだった。
そう思っていたし、それは今でもそう思う。でも、違う視点もあるかもしれない、と気づいたことがある。
最近、山下達郎さんのラジオ番組「サンデーソングブック」で、恒例行事だった「新春放談」のアーカイブをずっと聴いている。年に一度、大瀧詠一さんと対談するのだが、ふたりの発言(特に大瀧さん)に共感することがとにかく多い。
2009年(だったかな)の新春放談で、大瀧さんが自身のアウトプットスタンスについて、こんなことを言っていた。
 
「作りたいものはいくらでもあるが、発表したいものはない」
 
はっとした。僕もこれと似たような状態にあるのかもしれない。僕も現時点で作りたいものは、死ぬまでやり続けても終わらないくらいある。でも、それは、本当に世の中に発表したいものなの? 誰かに届けたいものなの? と自問自答すると、「もちろんです」と即答する自信はない。そうか、おこがましくも僕は大瀧さんの発言と同じような状況にあるのかもしれない。(ま、大瀧詠一ファンに怒られますな、こんなこと言ってると)
いま自分が向きあっていること、これからやろうとしていることを改めてひとつずつ、自問自答してみようと思う。「それは、発表したいものなのかどうか」と。作る行為を休むつもりはない。作ったから発表するかどうかは、自分で考えなきゃいけないなぁと思った。ナイアガラレーベルになるために……。
(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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