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カレーのヒント 033:リーバイス501のような……

10年ぶりくらいにジーンズを買った。

目的の場所に予定より早く到着し、ウロウロしていた時にたまたま通りかかった店にふと入ると、リーバイスが何本か売られている。そういえば、10年以上はいている古着屋で買ったジーンズがボロボロになっていたっけ。両側のポケットが破れているから、忘れていて鍵やら財布やらを入れるたびに足元まで落っこちる。あれはあれでこれからもはくつもりだけれど、そろそろ1本買ってもいいかもな。そう思って売り場の棚に目をやった。

リーバイスの501が置いてある。そこで札幌のスープカレー店『らっきょ』のオーナー、イデゴウさんのことをふと思い出した。僕が10年以上前に対談をしたとき、イデさんは、こんなことを言ってたっけ。

「カッコつけた言い方ですけれど、いつかリーバイスの501のようなカレーを作りたいんです」

あれから10年。僕自身も今は同じ思いが強い。カレーの流行は色々とあるけれど、スタンダードでいつまでも古びれないカレーに愛着がある。自分の作るカレーもそうありたいと強く思うようになった。

このジーンズにしてみようか。確か、サイズは、29だったかな。滅多に洋服を買わない僕は自分のサイズもうろ覚え。試着室で履いてみるとウェストも腰回りも丈もすべてがぴったりだった。そのままレジへ持っていく。

僕は、普段から全く洋服を買わない。たいていの服は10年以上着ているし、直近で洋服を買ったのが何年前かわからないくらいだ。ファッションに興味がないといえばそれまでだけれど、それ以上に、服に頓着したくないという気持ちが強い。理由はふたつある。ひとつは、自分自身が着るものを気にするほどの存在ではないという認識があるから。自分自身に対して「お前ごときが洋服なんか気にしてんじゃねえよ、もっと中身を磨け」みたいな気持ちがある。もう一つは、服に頓着している行為自体が僕にとっては邪魔だと思っているからだ。服を選ぶ時間もないくらい忙しいというわけではない。僕の日常から、洋服や髪形を気にしなければならない「マインドシェア」を排除したい。別に忙しくはないけれど、その余裕があるなら、カレーやスパイスのことで頭の中を満たしたい。

結果、服は、10年に一度買う? みたいな事態になる。いずれにしても、自分にぴったり合った服が見つかってそれを買うときは普通にウキウキしたりするものだ。いい買い物をした。このジーンズもこれから10年以上お世話になるんだろうな。

その日の夜は、たまたまイベントの打上げで高田馬場『らっきょ』に行くことになっていた。イデさんと対談した席が奥にある。イデさんのリーバイス話を思い出しながらスープカレーを食べた。そうか、僕は10年ぶりに買うジーンズでさえ、キッカケはカレーだったりするんだなぁ、と変な感慨を持った夜だった。

(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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