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カレーのお話 002:カレーのジュクの美味しいレシピ

”この味を伝えたい”というような、人生を変えるほどの一口に出会う人は、世の中にどのぐらい存在するのだろう。カレーの学校に入ると名店のシェフの「カレーのジュク」に参加するチャンスに恵まれる。そのうちの1つ、「マラバール海老カレーの会」は、奈良市あやめ池駅側にある「curry処プラーナ」店主の泉尾さんのカレーのジュクである。前職の営業マン時代に、”これだ”という味に出会い、その味を追求し続けて日々鍋の前に立つ。車に鍋などの調理器具一式を積み、はるばる奈良から東京までやって来てくれたシェフもまた、幸運な一口で人生を変えた1人だ。
ジュクの会場に入ると、何種類ものスパイスがズラリと並び、これから美味しい料理へと変わっていく材料が目に飛び込んでくる。まず、この準備の整頓感に期待が膨らみにワクワクしてくる。今日のメニューは、とろけるマンゴープリン、アチャール、ケララ地方のマラバール海老カレー、レモンライスの4種。この順番にライブクッキングで、レシピ説明してくれる方式だ。
泉尾さんのカレーづくりの肝は、「素材をシンプルにして、一つ一つの素材の旨みを最大限ひきだす工程」」に尽きる。1つの鍋でカレーのベースを作り、別の鍋でエビの香ばしい香りが立つアメリケーヌを作り、2つを合わせて仕上げていく。ベースは、ひたすら煮詰めてつくるやり方で時間がかかる、いや、かける。
火にかけた油の中で、スタータースパイスのレッドチリがゆらゆらと、マスタードシードがパチパチと、プチプチと鍋の中のクミンが弾けたならば、玉ねぎをいざ投入。スパイスではじめの香りを立てることが第一の関門だとしたら、ここは第二の関門だそうだ。カレーのジュクでは、玉ねぎを炒めた色を動物に例えられて会話が進む。「今日は、イタチですか?」は、玉ねぎの色のことを聞いている。「今はクラゲですが、イタチまで炒めます。」は、加熱とともに変化していく色を示す。「へー、イタチか。」「ふーん、イタチなんだぁ。」イタチ、イタチ、とジュク生が各々声に出すため、この瞬間に何匹かのイタチが教室に出没する。玉ねぎを炒め、イタチとともにこのじっくりとした関門を無事に越えると、頃合いを見て、にんにくと生姜(GG)を加えて煮詰め、頃合いを見て、パウダースパイス数種と、トマトが入り、また煮詰める。何度も水をさしては煮詰める工程を繰り返す。玉ねぎを収縮と拡張させながら丁寧に旨みを出すことがポイントだそうだ。水分を含んで伸び縮みする玉ねぎなんて、想像したこともなかったが、懸命に旨みを出そうと励む玉ねぎに、どこか愛着が湧いてしまい、家で作る時もしっかり煮詰めようと思った。
レシピを文字に起こすと、「スタータースパイスで香りを立て、玉ねぎをイタチ色に炒めた後、GGを加えて煮詰め、パウダースパイスとトマトを投入して煮詰める。その間、適宜水をさす。」といった感じだろうか。しかし、日本人の丁寧さと繊細さを持って、素材の旨味を最大限に引き出すようなカレーに仕上げていく工程には、単にスパイスをブレンドして作るカレーだと一言では表せない。鍋の中で、インドと日本の文化がブレンドされ、カレーとして生まれてくる。その様子の一部始終が惜しみなくジュク生に披露されている。私には、そう見えた。じっくり煮詰めた後、ココナッツミルクを加えたカレーのベースには、別の鍋で海老の殻で出汁をひき、海老の殻ごとミキサーにかけ、丁寧に濾してつくられたアメリケーヌが加わった。下準備にスパイスでマリネしておいた海老をフライパンで炒めた後、鍋に入れて一煮立ちさせて完成した。
実食のときこのカレーを口にした瞬間は、最高だった。海老の深みとコク、丁寧な味わいを香り豊かなスパイスが、口の中隅々まで連れて広げてくれる。レモンライスは、生姜の香りが効いた優しい味でカレーによく合うし、5~6種類のスパイスと香りと3種の酸味を加えたパンチを効かせた大根ときゅうりのアチャールが良いアクセントになった。このアチャールは、インドではなくネパール流らしい。まだ行ったことのない異国の地に思いを馳せながら食が進んだ。マンゴープリンは、牛乳と生クリームとゼラチンを絶妙な配合がポイント。丁度良いとろけ具合でなめらか。食後のチャイといただくと満足感で満たされた。ジュクに参加すると、美味しいレシピが、確実に増える。だけど、レシピ本では決して得られない体験があり、シェフとの出会いが心に残る。「自分が受けた衝撃の味を伝えたい!」と語ったシェフの味を、今度はお店で味わいたい。奈良に行く楽しみが出来たな、帰路の余韻に浸りながら、頭の中の私はお店木のテーブルに着席している。さっき食べたばかりというのに。(さとなお)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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