カレーのヒント 046:ハーブカレー HERB CURRY 宣言!?
そろそろ「ハーブカレーでいこう」と思う。
今年に入ってから新刊(そろそろ発売かな?)の撮影で、タイカレーを5種類か6種類くらい作った。半分は市販のペーストを使い、もう半分はペーストから手作りした。すごくおいしい。しかも、超簡単。これは素晴らしい! 改めてそう思った。
いままでタイ料理にはそれなりに興味があった。タイへは過去に10回くらいは訪れているし、タイでカレーもたくさん食べている。でも、カレー活動を始めて20年間、このジャンルに没頭することはなかった。おいしいけれど、あと一押し、自分には何かが足りない。でも、そのうち僕はこの世界にハマるときが来るだろう。そのときまでは放置しよう。そう、僕はまだタイカレーに本気出していないだけだから……。そう自分に言い聞かせてきた。
そこに来て、あの撮影で、「やっぱりこの世界に本気で取り組んでみよう」と思ったのだ。簡単だ、というのがとにかくいい。簡単だということは、手間をかけていくらでも難しくすることができるから。簡単なものを簡単なままやるつもりは僕にはない。簡単なものは複雑にし、さらに突き詰めてからもう一度簡単にしたい。その可能性を秘めたジャンルのカレーである。
まず手始めに、タイミングよく友達がやっている「ことり食堂」の7周年記念のお弁当を頼まれたから、そこで挑戦してみることにした。さいわい、時間はたっぷりある。弁当だから、まず最初に考えたのは、「常温の状態が最もおいしく感じられる弁当にしたい」ということだった。カオマンガイというタイのチキンライスをメインにすることにした。そこから1週間ほどの間、毎晩、夜、寝る前に料理の構成を考えた。メニューアイテムを決め、どのメニューにどのスパイスやハーブをきかせるかを考えた。4日前から少しずつ仕込みをし、当日を迎えた。「4日間かけた」といえばそうに違いないが、僕が調理に関わった時間は、2時間ほどである。簡単に言えば、30分ずつの作業を4日にわけてやったことになる。
通常、カレーのイベントなどの場合、当日の朝から2時間くらいで一気に何品かを仕上げることが多いから、そういう意味では調理時間は同じである。ところが、この手法の素晴らしい点は、僕が別のことをやっている時間、寝ている時間も鍋の中で、冷蔵庫の中で、素材はジワジワと味わいを深めてくれていることだ。結果、弁当はできあがった。
「ぼくの好きなカオマンガイ弁当」
・チキン →鶏もも肉をひと晩マリネし、5時間、低温調理。クラフトスパイス・フォレスト&こぶみかんの葉の香り。
・オイル →こぶみかんの葉のパウダーでオリーブ油に香りづけ
・ペースト →ココナッツベースの濃縮カレーペースト(ピリ辛)。
・ライス →鶏がらスープで炊いたほんのり風味づけ玄米。
・エッグ →半熟茹で卵をナンプラーで2日間漬け込み。
・ピクルス →塩もみキュウリとセロリを4日間の浅漬け。黒胡椒&四川青山椒&四川唐辛子の香り。
・トッピング →お好みで、刻んだパクチー。
50食近くのお弁当は、無事、「ことり食堂」のお客さんたちの手に渡った。僕自身、完成度にはかなりの手ごたえがあったし、ことり食堂のシェフやスタッフがいつも以上に感動してくれたに加え、日付が変わっても食べてくれたお客さんから「また食べたい」「忘れられない」と声がお店に届いているという。僕のところにも、SNSを通じて、「どうしても感動を伝えたくて……」というようなダイレクトメッセージが2件あった。ここまでの反響は本当に久しぶりのような気がする。
簡単にできるかもしれない料理に本気で向き合って手間ひまをかけて挑んだ結果だろう。この弁当を機に、僕は、ハーブカレーという新しいジャンルを確立すべく動き始めたいと思った。世の中ではスパイスカレーが流行っているようだけれど、ハーブカレーってのはなさそうだ。ツイッターにそんなことを書き、弁当の写真を載せたら友人からツッコミが入った。
「ねえそれってタイカレーじゃないの?」
そう、まあ、タイカレーといえば、タイカレーである。でもちょっと違う。僕はこんなふうに返信した。
「タイを中心に東南アジアのハーブ料理を学んでジャパニーズオリジナルハーブカレーを追求するイメージですかね。インドを中心に南アジアのスパイス料理を学んでジャパニーズオリジナルスパイスカレーを追求しているのと同じ流れ、かな」
タイ料理を専門としている人は数えきれないほどいるし、タイ料理店もタイ料理ファンもおびただしい数が存在する。でも、こんなイメージでハーブカレーを追求しようとしている人は、僕は知らない。要するに僕の場合、いつだって最終到達ゴールがジャパニーズオリジナルカレーに設定されるから、その瞬間にまわりを見渡しても同じスタンスで活動している人が見つからない世界に突入することになる。
さて、ついに僕は本気を出すときがやってきたのだ。スパイスカレーを卒業するわけじゃないけれど、みんなが注目し始めると自分が冷めてくるという性格は昔からだから、この場をそぉっと離れて、ハーブカレーの世界に忍び込んでみようと思う。そして、いつもの通り、僕はこれを僕一人でやるつもりはない。仲間がほしい。もうここ数日は、「誰に声をかけようかな」と「グループ名は何にしようかな」を考えてずーっとワクワクしている。
誰を誘うにせよ、「東京ハーブ番長」って名前だけはやめておこうと思っている。
(水野仁輔)