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カレーのヒント 050:カレーの教室

たとえば、車とドライブについて考えてみる。

車が好きな人が必ずしもドライブが好きとは限らない。ほしい車があって手に入れたいけれど、ガレージで磨いて眺めてみたり、町へ出て誰かに見られたりすることに喜びを感じる人がそのパターンだ。

ドライブが好きな人が必ずしも車が好きとも限らない。車にはそれほどこだわらない。でもドライブすること自体が好きだから、機会があったら運転したいし、オートマよりもマニュアル車がいいみたいな人がそのパターンだ。

もちろん、車もドライブも両方好きという人もいるし、僕みたいに車にもドライブにも興味がないという人もいる。僕の場合、目的地に到着することがゴールだから、そのための手段が車である必要はない。

たとえば、これらのことをカレーでも同じだよな、と考えてみる。

調理器具が好きな人が必ずしも調理が好きとは限らない。
調理が好きな人が必ずしも調理器具が好きとも限らない。
調理器具も調理も両方好きという人もいるし、どちらにも興味がないという人もいる。

おいしいカレーを食べたいと思ったとき、方法はいくらでもある。「自分で作る」を放棄するなら食べ歩けばいいし、自分で作るけど調理が好きなわけではないなら簡単なレシピを手に入れればいい。その人がどの位置にいるかによって、必要とするものが変わる。毎年カレーのレシピ本を出したり、カレーの作り方を提案したりしている僕は、誰がどの位置にいるのかについてあまりちゃんと考えてこなかった気がする。

いつも自分のいる位置から、自分の興味のあることを発信してきた。これからもそれは変わらないと思う。ただ、声を大にして発信したり、みんなから見える場所で発信したりするのはできるだけ控えることに決めた(いや、もともとそうしてはきたのだけれど)。
だって、どの位置にいる人にも響くことを伝えるのは僕には無理だから。

調理器具と調理の話に戻ろう。
僕の場合は、きわめて特殊な位置にいる。まず、前提として、僕は「おいしいカレーを食べたい」という気持ちがあまりない。じゃあ、なんのためにカレーを作るのか、といえば、「調理が好きだから」である。しかもマニアックに「調理プロセスと効果、その理由」に興味があるからだ。

こうしたらどうなるのか? それはなぜなのか? だとしたら、ああしてみたらどうだろうか? それが楽しくて20年以上、続けているのだ。結果、毎度毎度カレーはできあがる。でも、別に僕はそのカレーを食べたいわけではない。試食をして、「ふむ、なるほど、そうか」とか「ええ? なんでこうなるの?」とかが済んだら、残りは誰かに食べてもらいたい。要するに「カレーとは何か?」を知りたい。

調理器具にはあまり興味はないが、それが調理に関わるという点で知ったり使ってみたりするようにしている。もちろん誰かと競うようなことにはまったく興味がない。だから、車で言うなら、テストドライバーとかエンジニアとかの位置なのかなぁ。レーシングドライバーとして戦うつもりはないし、趣味で車を集めたり、乗り回したりするようなライトな感覚でもない。「車とは何か? なぜ走るのか?」を知りたい。そのためにドライビングスキルはどこまでも磨き続けたいし、誰も知らない運転方法を編み出したりもしたい。

カレーの教室という料理教室を始めようと思って、準備している。

3年ほど前から構想にあったものだ。僕のいる位置に立って僕の興味のあることを発信する料理教室になる。大きな声では言えないけれど、「おいしいカレーを食べられればいいという人は、カレー専門店に行ってください」だし、「おいしいカレーを作れればいいという人は、どこかで好みに合ったレシピを探してください」となる。カレーを作るという行為に疑問や発見、面白さ、喜びを見い出したい人に向けてなら、僕は自分らしさを存分に発揮してユニークな料理教室ができると思っている。それを「カレーの教室」でやりたいと思う。

そんなレアな人はきっととても少ないはずだけれど、このカレーの世界の片隅で、細々と長く続けていけたらと思っている。

(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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