カレーの思い出 114:インド人の先生にカレーを教わった話

昨年、あるインドレストランの料理教室に参加したときのこと。その教室は日本語が話せるオーナーが手順を説明して、シェフが作るというデモンストレーション形式で行われるものだった。この日のメニューはーココナッツとヨーグルトのカレー、アヴィヤル。テーブルにすべての材料が並べられ、オーナーがスパイスの名前と分量を言うと、シェフの男性が計量スプーンに入れたスパイスを皆に見えるように掲げ、鍋に入れる。私達はその言葉を逃すまいとメモする。するとオーナーがスパイスの効能・効果を丁寧に話しているその後ろでパッパッとなにやらスプーンでスパイスを入れているのが見えた。手順は進み、次のスパイスを入れる段階になった。またスプーンに入れたスパイスを調理の男性が皆に見せるように掲げ、鍋に入れる。私達は分量をメモする。オーナーがこっちをむいて説明していると、また奥でシェフがスパイスを鍋にパッパッと何さじも追加している。それが何度か続き、レッスン受講生もざわつきはじめた頃、参加者のひとりが笑いをこらえきれずに言った。「あのう…さっきからスパイスを追加で入れているのが見えるのですが。結局どのくらいの量を入れたらいいのでしょう…」するとオーナーは「ああ、インド人はなにかと多めにスパイスを入れたくなるんですよねえ」と言った。「さすが悠久の国インド!」「えええ~!せっかく必死になって分量をメモしていたのに~!」などと皆が笑った。
その後、しばらく自分でカレー作りを続けていくうちにわかってきたことは、分量やレシピに書かれていることの細部にまで忠実になろうとするよりも、鍋の中の具材がどのような状態や味になったら次の工程にいくかを知っておくことと、自分がもっているカレー像に味を近づけるために何の味やスパイスが必要かを理解できるようにすることが大事なのではないかということだった。カレー作りに慣れていない人ほど分量に臆病になるということと、デモンストレーションを見るということは鍋の中の具材の状態を見て学ぶことだったのではないかと気づいた。あの1回のレッスンでそこまで考えさせられるとはカレーの道は本当に奥が深い。実はあのシェフはただその日のノリでスパイスを入れていただけかもしれないけど。

→1回のレッスンでそこまで学ぶのがすごいですよ。シェフは何も考えず、気ままに作っているだけだと思います。でも、おっしゃる通りです。一番大事なのは、鍋中の状態との対話。紙に書かれた分量や作り方は、目安でしかないんです。それでも僕はレシピを通して、一番大事なことを伝えられないか、ともがいています。(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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