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カレーのヒント 060:そっか……。そっか……。

目の前にふたつの道があったとする。
ひとつは、勝ちやすく通ったことのある道。もうひとつは、勝つかどうかわからず、初めて進む道。後者を選ぶ人は好奇心や探求心が人一倍強い人なんじゃないかと思う。
昨日、今日の竜王戦第1局を見ていてそう思った。
豊島竜王に挑戦する羽生九段は、無難な道を選ばず2四歩を指して未知の世界へ突入し、短手数で敗れた。対局中、「そっか……」、「そっか……」と繰り返すのはいつも通り。終局後、感想戦の間も「そっか……」、「そっか……」としきりにつぶやいていた。
僕は羽生善治という人間は、一種の変態なんだと思う。「将棋とは何かを知りたい」と盤に向かい続ける変態(あ、いや、天才)。わかっている一手よりもわからない一手を選んで指しているような気がしてならない。そんな羽生九段を大いなる憧れを持っていつも見ている。

目の前にふたつの道があったとする。
ひとつは、おいしいカレーになることがわかっている道。もうひとつは、おいしいかどうかわからず、初めて進む道。僕は後者を選ぶことにしている。
先月スタートしたばかりの“カレーの教室”というテクニック伝授に特化した料理教室で、「おいしくなるとわかっている手法は選ばない」と話したら、受講生さんたちにキョトンとされた。
これを入れたらカレーがおいしくなる、とか、このタイミングでスパイスを加えたらカレーがおいしくなる、とか、こうやって火を入れたらカレーがおいしくなる、とか、過去に自分が体感したことのある手法を繰り返すことはしたくない。それがおいしいカレーにつながることがわかっているなら、もうやる必要はないじゃないか。どうなるのかわからない手法、自分にとって未知の手法を実践してみたい。そう思っていつもカレーを作り続けている。

羽生九段のような将棋界を代表する天才について、自分のようなカレー界の凡人が勝手な解釈をし、自分を重ねてみたりするのは、素人の特権である。その前提で言うなら、僕も羽生善治のような変態になりたい。「そっか……」、「そっか……」とつぶやきながらカレーを作る機会をこれまで以上に増やしていこうと思った。

(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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