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カレーのヒント 069:「カレーの金言」をもう一度

あなたにとってカレーとはなんですか?

この20年以上の間、僕自身が幾度となく聞かれてきたこの問いをカレー店のシェフに投げかけ始めたのは、10年ほど前からのことだ。当時、シェフからいただいた言葉を「金言」としてコースターに活版印刷し、取材内容を印刷した紙を同封して「カレーの金言」というアイテムを作っていた。

いつか、100個の金言がたまったらどこかに小さな会場を借りて個展でもやりたいなぁ、なんて考えていた。結局、このプロジェクトは10人まで到達したところで力尽き、そのまま7~8年が経過した。今でもあの取り組みは面白かったと思う。自分にとって大切な店のシェフが大切にしていることを聞けるチャンスなのだから。

手にしたコースターは、宝物になる。好きな店の好きな人を思いながら、ひとり、自宅でウィスキーをチビチビやる幸せは格別だ。だから、この素敵なプロジェクトを久しぶりに再開してみようと思っている。今度は僕ひとりではない。興味を持ってくれた人たちがそれぞれに店を決めて「金言」をもらいに行けるといい。

ひとまず、「1人1店」。コースターをキッカケに「自分にとって最も大切なカレー店はどこなのか?」を考えてもらうのもいいんじゃないかな。100枚集まったら楽しそうだという気持ちは変わらないが、別にたくさん集めることを目的とするつもりはない。金言集めにどの程度ハードルがあるのかは、集める人とお店のシェフとの関係性によってかなり差があるだろう。

ただ普通に考えたらこれは「ほとんど意味の分からないお願い」であり、不審がられても当然な企画である。昔からそうなのだけれど、僕が手掛ける企画、僕が「面白い!」と盛り上がる企画は、たくさんの人に称賛されたり多くの人から喝采を浴びたりするようなものではない。たいていの場合、最初に口にしたとき、耳にした人はキョトンとし、「……」と言葉がでなくなり、眉をひそめたりする。これまでずっとそういうものだった。今回もそれは同じ。もう慣れている。

そこで、この企画が実行されたとき、「金言」を受け取りに行こうとする人とお店のシェフとの間に繰り広げられるであろう会話を妄想してみた。「カレーの金言・想定問答集」である。

Q.これ、なに?
A.カレーの金言です。
Q.なに? それ。
A.「あなたにとってカレーとはなんですか?」の答えをコースターに書いてもらいたいんです。
Q.誰からのお願いなの?
A.わたしです。(※注1) 書いてもらえますか? →Goal-1.いいよ。
Q.なんのために?(※注2)
A.金言をかみしめながら自宅でおいしいお酒を飲むために……。 →Goal-2.いいね。
Q.なんで2枚あるの?
A.もう1枚は、いろんなお店の言葉を集めていつか個展をやろうとしています。冊子にまとめたりもするかも。(※注3)
Q.その個展や冊子は誰がやるの?
A.水野仁輔という人が中心になって、「カレーの学校」メンバーみんなでやります。(※注4) →Goal-3.なるほど、じゃ書いてみるか。
Q.ほかに何かに使うの?(※注5)
A.「カレーの学校」がやっているnoteというサイトで紹介する予定です。
Q.それはなんのために?(※注6)
A.カレーの好きな人たちで共有できたら、お店でカレーを食べるときにひと味ちがって感じたりするかも……。(※注7)→Goal-4.わかった、やろう。
Q.お金かかる?
A.かかりません。趣味の活動です。(※注8)
Q.ほかのお店にも聞いてる?
A.ほかのお店にはほかの人が聞いています。「自分の一番好きなお店にお願いしよう」ということになっているので、わたしはこのお店だけです。(※注9)→Goal-5.オッケー。協力しますよ。
Q.で、どんなことを書いたらいいの?(※注10)
A.たとえば、過去に回答してくれた人たちの例は、「蜃気楼である」、「魔法である」、「挑戦である」、「味噌汁である」などなど、です。真面目な答えでも不真面目な答えでも構いません。→Goal-6.ああ、そういうことね。わかった。
Q.困ったなぁ。「カレーとは何か?」なんて、考えたこともないよ。(※注11)
A.答えはすぐじゃなくても大丈夫です。いつか思いついたら書いてください。→Goal-7.じゃあ、やってみるか!

※注1:シェフの目をまっすぐ見て言おう。

※注2:超重要な質問。オリジナリティあふれる回答を準備したい。ただし、それは本当に自分の気持ちに正直なものでなくてはならない。嘘はすぐバレる。

※注3:この「……かも」ってのは、便利な表現だ。やるかもしれないし、やらないかもしれない。ま、きっとやるんだどね。でも、いつになるかはわかりません。忘れたころに。

※注4:ここで「水野仁輔」の名前を出すか出さないかは自由。でも、出すのは賭けでもある。いくつかのパターンが想定できる。

・店主が水野や学校を知らない場合……説明が困難。がんばろう。
・店主が水野や学校を知っていて水野と仲がいい場合……きっとGoal
・店主が水野や学校を知っていて水野に好意的な印象を持っている場合……たぶんGoal
・店主が水野や学校を知っていて水野に好意的な印象がない場合……もらう人の情熱次第
・店主が水野や学校を知っていて水野を嫌いな場合……諦めたほうがいいかも

※注5:なかなか警戒心を持たれている状態。でも、割とあるケース。

※注6:ほら、また来た。「なんのために?」。相当、怪しまれている証拠。

※注7:ここは、こちらも「……かも」で再び応対。まあ、「カレー好きと共有ができたら」なんていう理由は、ちょっといい子ぶっているからマイナスに働く可能性も。「楽しいからですよ!」とか「私がやりたいからです!」とかシンプルかつ逆切れ気味にシャウトする方がよかったりして。

※注8:誰もが気にする可能性のあるポイントですが、シェフによってはこれこそが核心に迫る内容だったりもする。お金に関する疑問にはいくつかの種類があって、「自分(店)が払うのかどうか?」「この企画を通して誰かがお金を稼ぐことになるのか? だとしたらそれは誰か?」「自分(店)にとって間接的にでも金銭的なメリットがあるのかどうか?」などなど。今回の企画はそのどれにも該当しない。しかもプロジェクトの遂行には時間と労力と費用がかかり、それはすべてこちらの持ち出し。だって好奇心だけで進めている企画だから。これこそが、過去の経験上、最も理解されにくいポイントである。とはいえ、それ以上でもそれ以下でもないのだから、疑問を持たれたら納得してもらえるまで説明するしかない。

※注9:割と大事なセリフかな。「どうしてもあなたにお願いしたいんです」という気持ちを伝えられるかどうか、それ以前にそういう気持ちをお店に対して持てているかどうか、が肝となる。立場上、様々なところから依頼を頻繁にいただくが、主にメールの文面で僕が読み取ろうとするのは、ここ。「水野じゃなきゃダメなんです」と嘘でもいいから言ってほしい。「水野が断ったら他に行くんだろうな」と思ったら、その依頼は断る可能性が高い。まあ、なんという上から目線。偉そうな話ですな。そのうち水野は干されるよね。でも、お店の人はここがちゃんと伝わったら喜んでくれると思う。

※注10:これ、たいていそう言われそう。「そんなのこっちもわかりませんよ!」とか「それをあなたに聞いてるんですよ!」などと言ってはならない。

※注11:「自分にとってカレーとは何か?」だなんて、考えたことあるシェフはほとんどいないはず。「食べ物、じゃない?」とか「仕事だよ」とか。そんな回答も個性が出ていいかもしれない。僕らのライフワークである「カレーの思い出」コレクションのときもたいてい同じような反応だが、「そんなものはない」という人でもちょっと会話をやり取りしてみたり、「どんな些細なことでもくだらないことでもいいので」などともう一押しすると、「そういえば、こういうことかもなぁ」なんて感じで言葉が出てくる可能性は割と高い。

カレーを生業にしている人に対して、「あなたにとってカレーとはなんですか?」と質問することは、「あなたとはどういう人間ですか?」を質問するのに近い。重く受け止める人も軽くいなす人も、その反応そのものがその人自身を表すことにもなると思う。だから、「カレーとは、◎◎である」という言葉をもらったら、その前後で「そのココロは?」とも問いかけてみたい。面白い話が聞けそうな気がしている。

その一方で、「カレーとは何か?」だなんて、本当に野暮ったい質問だとも思う。だいたい、そんな問いを投げかけてくるやつなんてろくなもんじゃない(あ、俺のことか)。カレーとは何か? だなんてさ、ほとんどの人にとってどうでもいいことだよね。そのどうでもいいことが自分にとって興味の対象なんだよなぁ。こればかりは仕方がない。

この企画に共感し、付き合ってくれる人、受け止めて金言を教えてくれるシェフに出会えますように。

(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔