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カレーのヒント 030:つくるたべるよむ

どこかで誰かが見ていてくれるはずだ、と常に思っている。そういう人はたくさんいなくていいし、偉い人である必要もない。誰か一人でもどこかにいてくれるなら、僕は僕がやっていることに安心して打ち込める。活動の原動力はそこにある。

本の雑誌編集部から取材依頼があった。『つくるたべるよむ』という書籍が本の雑誌社から出版された。「読むと本が欲しくなる」という裏テーマで作られたというこの本の編集者は、イートミー出版についてじっくり話を聞きたいと声をかけてくれ、僕の本づくりやカレー活動に対する考えをそのまま記事にしてくれた。
献本が届いたとき、彼女からのお便りにこうあった。
「チャローの茶摘み編を入手し読みふけっております。改めてすばらしい旅の記録です。2020年版のチャローも楽しみにしています。書籍化もぜひに!」
『インド即興料理旅行 ~チャローインディア~』は、100タイトル以上あるイートミー出版の本の中で最も売れないシリーズである。でも、僕は個人的に最も好きなシリーズでもある。これが一番面白い、と勝手に思い込んでいる。世の中の評価と自分の評価が一致したほうが本当は幸せかもしれないけれど、僕にはそれを果たせるだけの実力がないのだから仕方がない。いつか合本で書籍化をしたいと話したら、「ぜひうちの出版社で」と社交辞令(?)もいただいた。ともかく、今回もまた、「見てくれている人がどこかにいた」のだ。嬉しかった。

つい先日、僕の友人が彫刻作品をコンテストに出したそうだ。結果は選外。非常にショックを受けているはずだが、気丈に、いや、強がってこんなことを言っていた。
「あの審査員のレベルじゃ俺の作品のよさはわからないだろうね」
気持ちはわかるよ、と思った。僕はコンテストや審査に興味はないし、好きになれない。僕は誰のことも評価、評論したくないし、誰からも僕のことを評価、評論されたくはない。僕は僕自身の至らないところ、実力のないところは誰よりも知っているし、一方で、僕の自分の作品のどこがすごいのかは誰よりも自覚し、愛してもいるつもりだ。そんなのどこかの偉いさんにわかるはずがないし、誰かと比べて上だとか下だとか言われるなんて勘弁してほしい。
だから、彼にも言えるなら言ってあげたい。自分の作品に自信を持って、コンテストに応募するなんてことはやめればいいんだよ、と。ところが、彼は「認めてもらいたい」という気持ちがあるから、つい出したくなってしまうのだ。出したいけれど選ばれないと凹む。「じゃあ、実力をつけなさいよ」とか「センスがないんじゃない?」とか「時代とマッチしていないのかも」とか、いろんな意見があるかもしれないけれど、僕はそういうものでもないと思う。彼の作品を見て思いを伝えてくれる人がひとりだけでもいればいいのだと思う。偉い人じゃなくてもいいし、たくさんいなくてもいいと思う。
もっと自分のやっていることに自信を持ってほしいなぁ。彼の気持ちを推し量ると直接そんなことを言えるはずもない。だから、僕は彼が見るはずのないこの場所にこのことは書いておこうと思った。

コンテストというものは、「評価してほしい」とか「認められたい」とか「もっと注目されたい」とか「活躍したい」とか、色んな人の思いを背負って成立しているいい仕組みだと思う。飲食業界でもお世話になっている人はたくさんいるし、世の中に貢献している取り組みだと思う。でも、僕には縁のないものだ。彼にもきっと縁のないものなんじゃないかと思う。どうかな。わからないな。
少なくとも、僕は僕の作るカレーにしても、僕の書く本にしても、僕の立ち上げるプロジェクトにしても、コンテストや賞なんてごめんだし、星いくつとか何点とかやめてもらいたいし、誰からも評価も評論も受けずにいたい。これからもひっそりと新しいものを生み出し続けていきたいと思う。見ていてくれる人は必ずいると信じて。
(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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