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2023年の現

縁とタイミングを割と大事にしている。
占いも願掛けも運命も霊も前世も来世も何も信じないのに、
縁があるないとか、タイミングが合う合わないとかは考えることがある。

「いつか行ってみたい」と思っていた場所にマチュピチュがあった。
ところが、ペルー旅が具体的になった頃にはすっかり興味を失っていた。
タイミングが合わなかったということだろう。

今年の2月にペルーを旅した。
旅の目的は南米原産の唐辛子とペルー料理。
同行したシェフ仲間が「せっかくだからマチュピチュも行きたい」と言う。
僕は存分に白けた調子で、「いいよ、行かなくて」と返した。
世界遺産のムービーでも見ておくくらいで十分と思ったのだ。
ところがアンデス高地の食文化に興味を持ち、古都クスコに興味がわいた。
「それならついでにマチュピチュも付き合うよ」と渋々OKした。
が、国内の政情不安定が原因で空港が閉鎖され、実現しなかった。
きっと縁がなかったのだろう。

ペルーからの帰りにメキシコへ飛んだ。
件のシェフが「せっかくだからメキシコでタコスも食べたい」と言う。
僕は存分に気のない感じで「いいよ、食べなくて」と返した。
生まれてこれまで、タコスを食べておいしいと思った記憶がない。
足をのばしてメキシコに行くくらいならペルーの滞在日数を延ばしたい。
ところがメキシコにも豊富な唐辛子があることを知り、訪れたくなった。
「それならついでにメキシコも付き合うよ」と計画を変更した。
初日のメキシコシティで食べたタコスがおいしく、目が丸くなった。
きっと縁があったのだろう。

旅をするにあたって、ふと思い立って、丸刈りにした。
3週間ほど、旅の間がとにかく楽で、丸刈りを気に入ってしまった。
帰国後、この先ずっと僕は丸刈りで生きていくことに決めたのだ。
ひょんなことから、2023年は丸刈り生活を開始する記念すべき年となった。
なにかそういうタイミングだったのだろう。

そういえば、記録写真家のジンケ・ブレッソンは、
「じんけ」というニックネームで呼ばれていた小~中学校時代の9年間、
ずっと丸刈りだったらしい。
かく言う僕、水野仁輔も過去に何度か丸刈りになったことがある。
別に謝罪や懺悔をしなくてはならない悪事を働いたわけではない。
5年に一度くらいのタイミングでふいに丸刈りにしようと思い立つのだ。

ただ、これまでと違うのは、2月にスタートした丸刈り生活が、
ひとまず12月の現在まですでに10ヶ月続いている点だ。
髪型について頓着しなくてよくなったおかげで、
カレーについて考える時間が増えたんじゃないか、と捉えている。

現実を置き去りにして何事かに夢中になる様を
「現(うつつ)を抜かす」と言う。
頭を丸めたおかげでカレーに現を抜かすことができた。
そうか、何かに頓着しなくていい環境を作れば作るほど、
現を抜かす精度が高まるのかもしれない。

過去は振り返らない、と決めている。
未来のことも気にしない、と決めている。
ただただ現実だけと向き合う、と決めている。
でも、その現を抜かしたい。複雑だ。

縁あって丸刈りにしました、みたいな行動を
これからも増やせるといいなぁ。
そうすることで、もっともっとカレーに溺れていきたいと思う。

水野仁輔

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