カレーの思い出 291:焦りと責任

「生まれたばかりの娘にとってのカレーの思い出は、親である自分が作ってやらないといけないのでは?」という焦りと責任を感じたのです。思い出は娘自身がこれからどんどん積み重ねていくとしても、少なくともカレーとの出会いは親に責任があるから、娘にとってのカレーとの出会いをステキなものにしてやりたいと思ったのです。その頃、娘は離乳食を終えて普通食を食べるようになっており、すでにカレーも食べていたのですが、娘にとって初めてのカレーは、僕の作ったスパイスカレー(基本のチキンのレッドチリをパプリカに変更したもの)でした。1才の誕生日を迎える前で、まだスプーンを使えないということもあり、『人生初のカレーは、父親の作ったパクチー入りスパイスカレーを手づかみで食べた』という、思い出というか、記録を娘に与えることができました。
やがて娘も外食につれていけるようになり、次なる課題は「娘にとっての初めてのカレー屋さんをどこにするか」でした。ここで僕の頭に浮かんだのは、水野さんのカレーの思い出と、娘のカレーの思い出をリンクさせるということでした。水野さんの著書で、今はなき思い出の浜松・ボンベイのサグマトンカレーに福岡で出会った、と書いてあったのを思い出したのです。幸い、妻の故郷が福岡だったので、里帰りのついでに、娘を大川市のタージに連れていき、サグマトンを食べさせました。僕も妻も初めて行きましたが、とてもおいしかったです。娘もパクパク食べました。
それから1年あまりたち、現在に至るまでいろんなスパイスカレーを作っては娘に食べさせていましたが、少し前に初めてルーで作ったカレーを食べさせました。よく食べましたが、食べ終わったあと、「今日のカレーとパパのカレー、どっちがおいしかった?」と聞くと、即答で「パパのカレー!」との返事が。パパの顔はゆるみまくりです。
また、つい先日、4人前に対して小さじ1/8ほどのレッドチリを入れたカレーを食べさせた日の夜のこと。妻が娘をだっこして寝室に向かう途中、娘が妻に、「ママ、今日のカレーはちょっと辛かったな。はーちゃんはやっぱりパパのほうれん草カレーがいいな。」と言っていたそうです。
今では、「パパ、パパ、はーちゃんのために、辛くないほうれん草カレー作って~!」と催促してくるようになりました。娘が大きくなって、いい思い出となるのか、そもそも覚えているかどうかもわかりませんが、今後のカレーライフのいいきっかけになってくれたらいいなと思います。昨年の6月にふたりめの子供となる長男も誕生したので、こんどはこの子にもいい思い出を作ってやれたらなと思います。

→カレーの思い出は親の責任。すごい責任感。でも、そういう自宅での幼いころに食べたカレーの記憶が時代と共に薄まっていっているんですよね。ちょっとだけまじめなことをいうと、それは本当に残念なことだと思います。実は、この連載企画で「カレーの思い出」を毎日のように紹介しているのは、カレーの思い出が絶滅危惧種になってしまわないよう、という思いがあるからです。娘さん、幸せだと思います。(水野仁輔)

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