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カレーのヒント 055:自分には縁がない

将棋棋士の渡辺明二冠が初の名人位を獲得し、三冠となった。おめでとうございます。

第6局の行われた2日間は、第5局まで同様、目が離せなかった。名人位というのはほかのタイトルとは圧倒的に格が違う印象がある。現在の将棋界で多くの人が“実力トップ”と信じている渡辺二冠だが、名人挑戦は今回が初めてだった。僕は渡辺さんの熱狂的なファンというわけではないが、名人になってほしかった。渡辺さんの将棋は名人にふさわしい、と素人ながらに思ってだから、とてもうれしい。

これまで渡辺さんが名人位について何度となく話しきたし、今回、獲得後のインタビューでも同様に口にしたセリフがある。

自分には縁がないと思っていた。

あれだけ強く、タイトル通算25期獲得という実績がある棋士だから、確かに縁がないとしか思えなかった。でも、縁があった。できれば、このままの勢いで防衛を重ね、永世名人の称号を獲得してほしい。木村さん、大山さん、中原さん、谷川さん、森内さん、羽生さん……。この並びに渡辺さんの名前はふさわしいと思う。
昨夜から今日にかけて、新聞をはじめネットの記事を読み漁っている。渡辺さんは取材にしても解説にしてもブログにしても思ったことを割とはっきりと口にする人で、それが痛快で面白い。たくさんの記事の中でニヤリとしてしまったやり取りがあった。

― 世間から「将棋界の第一人者」と表現される点について。
渡辺 「第一人者」という定義づけがあいまいなところはある。タイトル戦に常時出ている人たちのことをそう言うと思う。そういう意味ではずいぶん前から第一人者だったかな(笑)。

そうそう、あなたはずいぶん前から第一人者ですよ! でも、そうストレートに答えられる棋士は他にはいなさそう。

昔、将棋の名言ツイッターみたいなのをチェックしていた時期がある。そこに渡辺さんの言葉が紹介されていた。どんな経緯でこれを言ったのか、本当に本人の言葉なのか、真偽のほどはわからないが、僕はこの言葉で渡辺明という人がとても好きになった。

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例えばプロ野球を見る時。「今のは振っちゃダメなんだよ!」とか「それくらい捕れよ!」。自分ではできないのはわかっていてもこのようなことを言いながら見ますよね。それと同じことを将棋でもやってもらいたいのです。将棋もそんなふうに無責任に楽しんでほしい。(渡辺明)
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プライドと将棋愛に溢れたすごいセリフだと思った。そんな渡辺さんが名人になった。今夜も勝手に新名人に乾杯し、うまい酒を飲みたい。

話は戻って、「縁がない」という言葉。僕も40歳を過ぎるころから、強くこのことを意識するようになった。自分には縁がない、と思うようにしていることがカレー活動をする中でもたくさんある。それを割と早めに素直に「縁がない」と思って割り切れるようになった。ただ割り切っているからと言ってあきらめているわけではない。意識はしなくなるけれど、カレーと向き合い、カレーとは何かを考えながら探求したり料理したり文章を書いたりすることは続けている。

むしろ、縁がないと割り切ることによって、本分に集中できることもある。だから、縁のないことに対してグズグズ悩んだり執着したりするパワーがあったら、自分のやりたいことややるべきことに注げばいい。僕はそうやっているつもりだ。そういう意味でも、縁のない名人位を獲得した渡辺明さんに改めて敬意を表したい。

(水野仁輔)

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別名“カレープレーヤー”養成所。入学すると50人の仲間(同級生)に出会える。授業に出るとカレーの未知なる魅力に翻弄される。卒業すると500人以上の仲間(卒業生)ができる。つまり楽しい日々はずっと続く。そして校長の僕は取り残されてちょっぴり寂しくなる。そんな学校です。水野仁輔

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