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カレーのヒント 053:カレーの教室、始めます。

料理教室の講師をお願いされたとき、必ず主催者に確認することがある。

「ホワイトボードは使えますか?」

たいていの場合、戸惑いの反応がかえってくる。会場にあれば問題ないが、ない場合はできるだけ手配してもらう。戸惑いの理由はホワイトボードの手配が困難だからなのではなく、料理教室でなぜホワイトボードが必要なのかがすっと理解しにくいからだ。何度かこう言われたことがある。

「料理教室でホワイトボードを使う講師の方は初めてです」

僕にとっては、熱源と鍋の次くらいに大事な道具だというのに。

おいしいカレーを作りたいと思ったとき、方法は主にふたつある。

A. おいしいレシピを見つける
B. おいしく作る技術を磨く

どちらも手に入ればベストだけれど、なかなか大変だ。僕のやる料理教室は圧倒的にBを重視している。今年の新刊『スパイスカレードリル』のまえがきだかあとがきだかにも書いた。「レシピと出会うのではなく、レシピを通して技術と出会ってください」と。

なぜあのカレーはおいしいのか? なぜこのカレーはおいしくないのか? すべての調理プロセスに理由があるはずだ。それをできるだけ詳細に伝えようとしたら、図式化したり、手順を整理したり、鍋中で起こっている反応を話す以外の形で表現したりしたくなる。だから、ホワイトボードがどうしても欲しいのだ。

最近、1台のホワイトボードを購入したのは、料理教室を始めることにしたからだ。そのためにキッチンも借りることにした。使い勝手のいい正方形のレイアウトで、日当たりと風通しがよく、駅から近い場所。物件の申し込みをし、準備を進めている。「カレーの教室」を始めるために。

https://www.curry-project.com/cook

僕の伝えたいことを存分に伝え、受講者の知りたいことにきっちり応えるために最大10名の少人数制にした。十分な技術の習得をしてもらうために全5回のコースにした。
3時間という限られた時間の中で、無駄なくできる限りの技術を伝授するために、東京カリ~番長のリーダーを“実践担当講師”として招き、“理論担当講師”の僕とダブル講師の体制で迎えることにした。

さらに、全授業を終了し、卒業した後は、「水野+リーダー+卒業生」をコミュニティ化し、気兼ねなくコミュニケーションが取れるような形を作るつもりでいる。すでに15期を数える「カレーの学校」で実績があり、その魅力を実感している形だ。

「なぜ水野さんはご自身で料理教室を主催されないんですか?」

これまで何度もいろんな方から質問を受けてきた。答えはシンプルで、僕は「教えるよりも学びたいから」というものだ。僕が持っているものを誰かに伝えたり教えたりすることよりも、僕自身が知らないことや手にしていないことを学んだり習得したりすることに専念したい。そんな身勝手な願望から、料理教室の主催には興味を持たなかったのだ。

でも、5回の授業を受けた受講生さんたちが、将来、カレー調理の可能性を広げる仲間になってくれる可能性があるとしたら……。そう考え始め、今は久しぶりに胸が高鳴っている。楽しみだ。持っているものをすべて伝えるつもりで「カレーの教室」を実施したい。

レシピよりも技術に興味がある人。結果以上に過程を重視し、理由や原因を探ろうとする好奇心が旺盛な人。そんな人たちが僕らの仲間になってくれることを願っている。

(水野仁輔)

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