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2024年の夢


あれもしない
これもしない
もっとしない
もっともっとしない

ザ・ブルーハーツの「夢」という曲の歌詞をもじってみる。別に歌う必要はないけれど、「な」を「た」に変えれば、甲本ヒロト氏の歌声が頭に鳴り響く。このスタンスを貫いているのが、水野仁輔というカレーの人である。することを決めるのではなく、しないことを決めるというのは、優れた経営者の特徴らしい。が、水野の場合はそんな高尚なものではなく、極めてくだらないことを「しない」と決めているのだ。

・飲食店の営業日時は調べない
・行列には並ばない
・予約はしない

お酒の飲み方もがんじがらめ。

・ウィスキーはスコットランドのシングルモルトしか飲まない
・ワインはブルゴーニュワインしか飲まない
・ビールは飲まない

食事に関する「しない」だけでなく、着るものにまで決め事がある。

・靴はVANSのスリッポンしか履かない
・キャップしかかぶらない
・白いシャツしか着ない

ファッションに関する「しない」だけでなく、日常の行動制限も甚だしい。

・SNSでの個人的な発信はしない
・電子マネーは使わない
・LINEはやらない

便利なものを遠ざけ、選択肢を狭め、あえて自らを窮屈な環境に追いやって、小さな喜びを見出すことに幸せを感じているのだという。不便がアイデアや工夫を生むと信じているらしい。

何を隠そう、記録写真家として活動する僕、ジンケ・ブレッソンも撮影について3つの「しない」を実践している。

●単焦点でしか撮らない
●横位置でしか撮らない
●自然光でしか撮らない

そもそも、僕には「国内外をめぐるカレーの旅しか撮らない」という大前提がある。カレーしか撮らない記録写真家というのはおそらく世界で一人だけなはずである。その上で、3つの「しない」を簡単に解説しておく。

単焦点レンズを使うとズームができない。もっと寄って撮りたいと思っても寄れないわけだから、工夫して撮るか、諦めるかしかない。

横位置ではなく、縦位置で写真を撮ると、同じ景色でもよりドラマチックに撮れることが多い気がする。でも、僕は“記録”写真家だから、ドラマ性を排除したい。縦にフレーミングすれば魅力的に写るだろうな、と思ってもカメラを傾けることを禁止しているのだから、工夫して撮るか、諦めるかしかない。

自然光は美しい。自然光が入らない、または照明の光の強い屋内や、自然光が足りない朝や夜は、シャッターを押さないと決めているのだから、工夫して撮るか、諦めるかしかない。

誰にも頼まれていない、誰も得しないルールで自分を縛り付けているのは、それが楽しいからだ。すべての行動の根底にあるのは、「諦める」という行為である。そういえば、水野仁輔は口癖のように「あったらあったで、ないならないで」と言う。たいていのことはどうにかなる。どうにもならなかったら諦める。これが常態化してくると、じわじわと諦めることの心地よさを感じ始める。なんとも快感なのだ。

たまに過大評価を受け、「ストイックですね」なんて言われることもあるけれど、ストイックなわけがない。ただのマヌケなのである。来年以降は、もっとたくさんの「しない」を増やすことが僕の「夢」である。

記録写真家 ジンケ・ブレッソン


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